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虐待被害者という勿れ - 虐待サバイバーという生き方
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出版社内容情報

怒っていい。気づいて、逃げよう!被虐児とその親、行政職員、
「児童虐待」の暴力に晒されているすべての人におくる証言集

 本書は、虐待サバイバーの語りからできている。その語りは、2019年に「虐待サバイバー写真展(kojikoji.themedia.jp)」を催した田中ハルという写真家のモデルとなった人たちによるものである。田中はADHD(注意欠如・多動性障害)、統合失調症、心臓疾患、部分てんかんなどを抱えている。そして、幼少期より母親から虐待を受けて育った。それが虐待というものだと知ったときからこの問題に興味をもち、「虐待サバイバー写真展」を企画した。
 「虐待を受けて育ったけれど、今、生きている。その証としての写真を撮らせてください」と呼びかけた田中の声に応え、モデルになった人たちは、凄惨な過去を背負いながらも、写真の中で柔らかくほほえんでいる。虐待の後遺症に苦しみながらも、今を生きている。
本書の語り手たちは、30代から50代の女性四名と男性一名である。撮影した一人ひとりに田中自身が声をかけて、「虐待された過去と今を語れる」と返事をくれた人たちだ。私の取材を受けてくれたのは、田中への恩返しだ。この言葉を聴いたとき、虐待サバイバーたちは、子どもや女性への暴力防止に取り組む森田ゆりの言う、「トラウマと共に生きてきた過去を慈しみ、現在、未来もトラウマとつきあいながら生きていくという新しいサバイバーの視点」をもっている人たちだと実感した。胸がざわついた。心が動いたから、私はていねいに彼女たちの声を文章にした。
 児童虐待は深刻な社会問題である。しかし、その早期発見は困難を極める。虐待を受けている子どもたち(被虐児)は、自らの置かれた状況について沈黙を守ることが多い。それは、家庭内暴力や児童虐待がいまだに社会的に、そして被虐児当人にとってもタブー視されているためである。被害経験を語ることは、容易ではない。親や周囲からネグレクトや身体的・心理的虐待を受けてきたサバイバーたちの語る内容は時に凄絶だが、本書はフィクションではない。児童虐待の現実を描写する本書が、今、児童虐待の現実とともにある人たちに、被虐児たちの声を代弁するものとして届くことを切望している。(しまもり・さやか)