内容説明
1965年刊の朴慶植『朝鮮人強制連行の記録』の悪しき影響のもと、長きにわたり論争となり、また近年再び、韓国での「徴用工裁判」(賠償問題)等で注目を集める戦時中の「徴用工」の実態。強引に集められ、奴隷のように働かされたというのは本当か。従軍慰安婦に次いで論議される「徴用工」問題を、先入観なしに一次資料をもとに読み解き、本格的に論じた新しい研究書。
目次
第1部 朝鮮人戦時労働者「強制連行」「強制労働」説への反論(朝鮮人「強制連行」説への反論;朝鮮人「強制労働」説への反論)
第2部 一次史料から見た朝鮮人労働者の実態(『特高月報』が記す朝鮮人労働者の実態;新史料発見・日曹天塩炭鉱の朝鮮人労働者の実態;佐渡金山は朝鮮人強制連行・強制労働の現場ではない;歪曲された三井三池炭鉱の真実)
著者等紹介
長谷亮介[ナガタニリョウスケ]
歴史認識問題研究会・研究員。麗澤大学国際問題研究センター客員研究員。1986年、熊本生まれ。熊本大学文学部歴史学科卒業。法政大学大学院国際日本学インスティテュート博士後期課程修了。学位論文は「日本の学会における『南京事件』研究の考察」(修士論文)、「『戦後歴史学』から見る戦後日本における歴史学の変遷―歴史学研究会を例にして―」(博士論文)。学術博士。大学院修了後に歴史認識問題研究会に所属し、朝鮮人戦時労働者問題を中心に研究を進める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
本書は朝鮮人「戦時労働者」問題(所謂、「徴用工」問題)について考察している。朝鮮人は戦時中に朝鮮半島から暴力的に日本に連れてこられ、奴隷のように働かされたという学説が存在する。これは1965年に朴慶植という人物が出版した『朝鮮人強制連行の記録』に記された内容を基にしているが、現在では彼の歴史考察には大きな問題があることが判明している。しかし、日本の学界は未だに朴慶植の主張は正しいと支持している状況である。2018年10月に韓国の大法院(最高裁)が新日鉄住金に対して戦時中の韓国人元工員4名に各1億ウォン(約1千万円)の損害賠償を支払う判決を下した。これは、1965年に締結した日韓請求権協定に反する判決内容だった。同協定では、戦時期に発生した請求権問題は「完全かつ最終的に解決」したと定めている。韓国大法院判決後、強制連行されて無理やり働かされたとして日本企業に「賠償金」を求める裁判が増加し、全て原告側の勝訴となっている。問題が深刻化すれば、日本と韓国の国交断絶の危険性が出てくる。少なくとも、日本の企業としては安心して韓国内で事業を進めることはできないだろう。しかし、朝鮮人は強制連行されて強制労働させられたという学説は客観的研究、学術的研究においては証明されていない。つまり、これらはバイアスのかかった、きわめて政治的な、事実無根の日本批判なのである。
日本人が自国の歴史を客観的に見るためにも、韓国との交流を健全化するためにも、朝鮮人戦時労働者の歴史を研究する必要がある。本書は第1部と第2部に分けて論述している。第1部では、朝鮮人「強制連行」・「強制労働」説への反論を展開する。戦時中における朝鮮半島の状況を考察し、日本人が朝鮮人を奴隷のように虐げていたという過去の研究内容を整理する。第2部では、佐渡金山や北海道の日曹天塩炭鉱などを取りあげて、一次史料から見た朝鮮人労働者の実態に迫る。特に、佐渡金山では強制労働説を支持する「強制動員真相究明ネットワーク」といった日本の民間団体、あるいは「民族問題研究所」といった韓国の団体などが積極的に韓国人証言を用いている。歴史学においてオーラルヒストリー・証言とは慎重に扱わなければならない資料であるが、多くの証言は恣意的に紹介されていると言わざるを得ない。筆者は研究会やフィールドワークに実際に参加し、彼らの主張に学術的観点から反論していく。本書は若き学徒によるこの問題についての新しい研究書であり、旧態依然とした左翼的史観に縛られた日本の歴史学会に新風を吹き込む地道な研究成果である。