内容説明
対人暴力によるトラウマで被る主要な痛手は、被害者と社会との関係が崩壊し、被害者が孤立させられることにある。複雑性PTSD概念の提唱者として知られるジュディス・L・ハーマンが示す治療モデルのなかでも、被害者が対人的つながりを取り戻すための重要な回復過程に位置づけられるのが、トラウマ・リカバリー・グループ(TRG)である。TRGは目標指向的・相互支援的なグループ療法であり、参加者が自身のトラウマに関連する達成可能な目標を設定し、トラウマ体験の共有とメンバーからの共感的なフィードバックを経て、目標達成へと進むための、安全な枠組みにおける対人関係を提供する。TRGを導くための手引書であり、ハーマンたちの理論と実践の成果も示す本書は、複雑性トラウマ支援のための包括的マニュアルと言える。付録には、メンバー選定などの事前準備や毎回のセッションで使われる用紙など、グループ運営に必要な資料を備える。
目次
第1章 対人暴力とトラウマの克服
第2章 トラウマ・リカバリー・グループの概要
第3章 準備とメンバーの選定
第4章 目標設定期
第5章 目標達成期
第6章 終結期
第7章 スーパーヴィジョン
第8章 対象に応じたTRGの適用
第9章 TRGの治療効果の研究
付録
著者等紹介
カリヴァヤリル,D.[カリヴァヤリル,D.] [Kallivayalil,Diya]
CHAの外来精神科で心理学者として勤めており、ハーバード大学医学大学院の精神医学部の教員である。VOVで2年間、トラウマサバイバーの症状評価と治療に携わり、ポスドク課程を修了している。カリヴァヤリル博士は、心理療法をするかたわら、トラウマ、フェミニスト理念に基づく心理療法、社会的少数者と移民のトラウマと移住による心理的健康への影響と文化的社会的参画、ナラティブな介入法、性別による社会参画と少数派のアイデンティティの問題などの論文も発表している
杉山恵理子[スギヤマエリコ]
国際基督教大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。学術博士(教育学)。精神保健福祉士、臨床心理士、公認心理士。精神科病院・クリニック、保健所等において臨床活動に従事し、精神医療審査会、医療安全推進協議会等の委員として保健医療福祉行政にかかわる。四国学院大学社会学部教授を経て、現在、明治学院大学心理学部教授。精神医療のみならず、母子保健・地域精神保健・災害支援・支援者支援などさまざまな分野における集団支援を試み続けている
小宮浩美[コミヤヒロミ]
国際基督教大学教養学部理学科卒。カルフォルニア大学バークレー校生物化学学部理学博士。カルフォルニア大学ロスアンゼルス校分子生物学、カルフォルニア工科大学化学学部でポスト・ドクトラル・フェロー。大腸菌の変異株554の活性のないアスパラギン酸カルバミル転移酵素、ロドバクター・スフェロイデスの光合成中心、アルファ・ファイブロブラスト成長因子、アゾトバクター・スフェロイクター・ヴィネランディーの窒素固定アイアン・プロテインなどのX線解析による構造決定研究に従事。現在は、通訳・翻訳及び科学関係の著作をしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)