内容説明
“精神分析家という名の詩人”ボラスの創造的な言葉にあふれた事例の数々。精神病者たちとの経験から生まれた独自の思考や着想が、読者の連想を喚起する。
目次
第1部(壁にぶつかって;アメリカの狂気;凍結精神病 ほか)
第2部(歴史から神話へ;そっとしておくこと;メタ性愛 ほか)
第3部(あなたはどこから来たの?;変化;離島のルーシー)
著者等紹介
ボラス,クリストファー[ボラス,クリストファー] [Bollas,Christopher]
40年以上のキャリアをもつ英国独立学派の精神分析家・理論家・著述家。理論面ではウィニコットを継承。精神分析関連の著書多数
館直彦[タチナオヒコ]
たちメンタルクリニック院長、大阪市立大学生活科学研究科特任教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
統合失調症患者の多くが、不要な入院治療や過剰な投薬によって人間性を剥奪されていることに対して、ボラスは、彼らはもっと人道的な扱いによって援助されるべきであり、初発直後に適切なサイコセラピーを受けられれば、症状を悪化させることはなく、場合によっては発症前の状態に戻すことさえ可能であると言う。本書は、1960年代以降、統合失調症患者たちと関わってきた、著者の個人的な体験を描きつつ、好発年齢の時期に、どのように発症に至るのかについても自身の理解を示している。
最近まで、統合失調症は100%生物学的な疾患であると認識されてきたが、今日、オープンダイアローグが話題になっていることでもわかるように、その概念自体が流動化している。力動的な理解の重要性が再び見直されるようになってきており、精神病の精神療法として「対話すること」の意義が注目されるようになっている。本書はそれに先鞭をつけたものと言えるだろう。
精神医学では薬物療法が中心であり、臨床心理学領域では認知行動療法(CBT、SST)が隆盛である現在、本書は、力動的心理療法や精神分析の復権を呼びかける稀有な書であると同時に、患者や家族にとっても、病気を理解する助けになる一冊でもある。脳や伝達物質で病因や症状を説明されると理解はしやすいものの、所詮は「薬以外ではどうにもできないもの」という諦念にしか至らないが、そうではないことを著者は丁寧に解説してくれている。
ボラスの邦訳はこれまで数冊出ているが、それらは全て精神分析の専門書。本書では分析用語はほとんど使われていないため、ボラス理論を知らなくても、十分に理解できる内容になっている。