〇Topix
菊田一夫氏によって書き下ろされた本作は、1959年に春日野八千代演出・主演により初演、1997年にレビューシーンを盛り込んだ一本立て作品へとリメイクされ、麻路さき主演で再演された後、2007年に瀬奈じゅん主演の全国ツアー公演としても再演されるなど、時代を超えて多くのお客様に愛されてきた作品。この不朽の名作を、月城かなとを中心とした月組で、酒井澄夫監修のもと、若手演出家・谷貴矢の新たな演出で上演。
インド北部のカシミール、ダル湖を舞台に繰り広げられる若き騎兵大尉ラッチマンと貴族の娘カマラとの熱く息詰まるような恋、そして、そこから浮かび上がってくる人間の複雑な心理――宝塚ならではの美しく情緒豊かな作品。
〇Story
インド最北部、インダス河の流れるカシミール。毎年夏になると、世界各国の大使・公使や富豪達、それにインド諸州の王族らが、避暑にやってくる。ベナレスの領主チャンドラ・クマールの孫娘で、やがてデリー大公ゴヤール王家の女官長になる身の上のカマラも、祖母インディラ、従兄弟クリスナらとともに、この地でひと夏を過ごしていたが、明日にはクリスナの城があるハイダラバードへ発つことになっていた。
カマラはこの夏、騎兵大尉のラッチマンと恋に落ち、二人の仲は公然のものとなった。あまりにも身分の差がある二人は王族や各国大使・公使のみならず、新聞記者たちの注目をも集めてしまう。二人の噂が夫チャンドラやゴヤール王家にまで聞こえ、家の名誉が失われることを恐れたインディラは、カマラにラッチマンと別れることを命じる。いつかは別れなければならないと自覚していたカマラは、心なくもラッチマンに冷たくあたり、彼の愛を拒絶する。突然のカマラの心変わりにラッチマンは傷付き去っていくのだった。
その後間もなく、パリの国際警察から、悪名を轟かせている前科十二犯の世界的詐欺師ラジエンドラがこの地に滞在中との連絡が入る。憲兵隊長の報告によれば、ラジエンドラは相手の大金持ちや王族を騙すために騎兵大尉を装っているのだという。そして、氏素性の分からない騎兵大尉といえばラッチマンしかいないと断言するのだった。これを聞いたクマール一家はラッチマンを呼び戻して詰問する。頭ごなしにラジエンドラだと決めつけ、カマラまでもが疑いの眼差しを向ける有様に、ラッチマンは確かに自分こそがラジエンドラであると告白する。ラッチマンに、カマラやクマール一族との関係を一切口外しないように求めるインディラ。幾ら必要かと問われたラッチマンは、取引の条件を示す。騎兵大尉ラッチマンは姿を消す代わりに、今宵、愛するカマラを望む、と――。一族の名誉を守る為その要求を受け入れたカマラを、ラッチマンはダル湖の湖畔へと連れて行く。
一方、フランスから帰国したチャンドラとカマラの妹リタは、港町からハイダラバードへと向かっていた。リタはパリで恋仲になったペペルという男との婚約を許して欲しいとチャンドラに打ち明ける。チャンドラは強く反対するが、リタとペペルの計略にかかり、しぶしぶ付き合いだけは認める羽目に陥ってしまう。
ハイダラバードに入城しようとしたチャンドラは、群衆の中にラッチマンの姿を認め、彼に話しかける。チャンドラは、かつてパリである事件に巻き込まれたところをラッチマンに助けられたことがあったのだ。チャンドラは信頼するラッチマンにペペルのことを相談する。ペペルという名に聞き覚えのあるラッチマンは、チャンドラの力になることを約束する。
こうしてチャンドラに伴われたラッチマンは、ハイダラバードの王宮で再びカマラと顔を合わせるのだが……。
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